サイン

私は小学生の頃、「サイン」に強烈な憧れを持っていた。

 

芸能人やスポーツ選手が色紙にサッサっと書く、あの「サイン」である。

 

しかし田舎者であった私には、そんな人達に会う機会など毛頭無かった。

 

実は、お忍びでキムタクが別荘を持ってるなんて噂もあったが、どう考えてもキムタクにメリットなど無いので、どうせ嘘だろう。

 

 

どうしてもサインが欲しかった私は、母親とイオンモールに行った時に、ノートとペンを持ちこんだ。

 

母親が買い物に気を取られている隙を盗んで、すれ違う人達にサインをお願いをしてみる。

 

当然、お願いされた人達は

「えっ?なんで私のサインなんか?」

という反応をする。

戸惑いながらも、子供のお願いを無視するのは気が引けるのか、皆サインを書いてくれた。

 

有名人の様にササッとした物ではなく、

漢字やひらがなのサインだったが、凄く嬉しかった。

 

 

10人ほどの「サイン」というより「署名」をもらい

 

「そろそろ最後にするか」

 

と決め、雰囲気のある初老の紳士にサインをお願いした。

 

すると、初老の紳士は「おっいいよ!」

と何の躊躇もなく書いてくれた。

 

ノートを見ると、今までもらった物とは違い、あの憧れていたササッとしたサインだった。

 

 

あの紳士の正体は何だったんだろう…。